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投資は売却して初めて評価 |
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前項で、投資の複利利回りを表すIRR(内部収益率)について述べました。
1000万円で投資用ワンルームを購入して、年間純利益100万円で5年後に1000万円で売却したときのIRRは10%ですが、900万円で売却すると8.31%になってしまいます。この売却という概念が、収益還元法では重要になってきます。投資は完結させないと評価が出来ないのです。一般的な投資の話では当たり前のことですよね。解約の出来ない定期貯金に預ける人はいないと思います。何年間は解約できなくても、必ず解約できる時が来ます。投資元本が戻ってこないような投資は考えられないと思います。しかし、日本の不動産事情からすると、ちょっとそぐわない部分があります。先祖伝来の土地にアパートを建てる。建てる人の気持ちの中では、その物件を売るなどという発想はない方が多いと思います。アメリカのように、5年ごとに売り買いが繰り返される世界とはだいぶ事情が違います。この辺の事情も日本になかなか収益還元法が根づかない理由でもあります。でも、投資物件の場合は違います。投資用ワンルームの購入には、売るという発想は絶対必要です。なぜなら、換金性のない投資などというものは意味がないからです。
通常、収益還元法の評価は5年で行います。それ以上長期になると、不確実性が高くなり毎年の純利益の想定等を行うことに無理が生じるからです。もう一度、1000万円で買ったワンルームマンションの評価をしてみましょう。もう少し現実的な例として、1000万円で買い、毎年の純利益80万円として考えましょう。
1. 5年後1000万円で売れた場合
2. 5年後900万円で売れた場合
3. 5年後800万円で売れた場合
それぞれの複利利回りIRRは
1. 8.0%
2. 6.2%
3. 4.3%
となります。前項でも述べましたが、このIRRの計算は金融電卓で行います。詳細な説明は紙面の都合上出来ないので、興味のある方は IREM JAPAN の主催する金融電卓セミナーにご参加ください。
どうですか。複利の利回りIRRが8%と魅力的な投資が、売却価格を800万円まで下げると、4.3%まで下がってしまいます。売却価格を下げて計算してみることの意味は何でしょうか。それはリスクを計算することなのです。リスクとリターンは表裏一体の関係にあります。リターンあるところリスク有りです。5年後を正確に予測することは出来ません。だからこそリスクを計算することが大事になってきます。この場合の800万円での売却は値下がりするかもしれないというリスクを計算しているのです。投資は常にリスクが伴います。収益還元法のメリットの一つとして、時間的リスクを計算することができるということが挙げられます。ですから、売るつもりがなくても、5年後に売却すると仮定してIRRを計算することに意味があるのです。
売却価格の設定で、複利利回りIRRが大きく違ってくるということは、逆に言えば不当にIRRを大きく見せる仕掛けも出来るということです。前記の例は一つの部屋を買う場合なので単純ですが、1棟を評価する場合はもっと複雑になります。データもたくさん出てきます。そうなると、数字の一部をいじっても専門家でないとわからない場合が出てきます。最も簡単な手口は、売り抜けの数字を高く評価することです。専門的にはGoing
outのキャップレートという数字を使うのですが、これをいじると評価はすぐ良くなります。アメリカではこのキャップレートの全国的なインデックスがあり、一般に公開されています。ですから、ここでのごまかしはあまり出来ないのですが、日本にもこの手のインデックスがあるのですが、統計の母数が少なく、アメリカほどの信頼性のあるものではありません。そのような事情と、日本にはまだまだ収益還元法が一般的でなく、自在に使いこなせる人材が乏しいという事情があります。従って、プロの不動産業者でもごまかされる場合が出てきます。ですから、この収益還元法による評価はスキルがあり、なおかつ誠実なプロに任せないといけないのです。何度も繰り返すことになりますが、この手の仕事はCPMを持った人にお任せください。
このように収益還元法は若干複雑な側面があり、直感的に理解しづらいものです。しかし、予測できない将来のリスクの大きさを測ることが出来るという意味で、非常にすぐれたものです。従って、将来ともに売却する予定のない物件であっても、建築時には収益還元法による評価をすることは大変意義のあることだと思います。ご自分の財産全体(ポートフォリオ)を考えたとき、固定資産と流動資産がうまくバランスが取れている必要があります。もしご自分の財産が固定資産に偏っている場合などは、絶対収益還元法による評価が必要です。なぜならそのような場合、固定資産を換金する必要が出てくる可能性があるからです。
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